そんなもんだよ

彼女は先週、男と別れてきたと俺に告げた。

俺は、その訳を彼女に聞いてしまった。

 

 

彼女が1年付き合った彼と別れた訳など、私は聞く必要がなかったのだ。それを教えてくれる事自体が遠回しなOKサインだろうと理解出来たのだから。しかし私は、何故彼女がそんな婉曲的な言い回しで私に真意を告げようと選んだのか疑問を抱いてしまった。だからこそ「彼氏と別れてきた」に対して、とっさに「じゃあ、付き合おう」ではなく「どうして?」という原因究明の確認を、約2秒後に返答してまったのだ。

 

今回は1回目のデートだった。しかし、彼女とは共通のコミュニティ(習い事)で50回以上も顔を合わせた仲だったので、既に人格についてはお互いに何となくわかっていた。従って、彼女は「3回目のデートで告白」よりも圧倒的に早い、今回の初回デートで進展を望むような心持だったのだろうと、後で冷静に考えると理解できた。ただ、私は彼女の「別れた」という発言から、瞬間的にそこまで感づけなかったーーーーーこの点は反省すべきだった。一気に想いを告げてしまっては失礼ではないだろうかという考えが脳裏をよぎり、「どうして?」という話題をワンクッション置いてしまったのだ。

 

今回のデートの約束を取り付けるまでの彼女と私との間のSNSの流れ(時間間隔・頻度・話の進みの速さ・意外性)の面から考えてみても、最初の切り返しで「じゃあ、俺と付き合う?」と最速で言えば良かったのだ。反省すればするほどそうだったように思う。「どうして?」なんて聞いている場合じゃなかった。

 

ところで、私の「どうして?」に対する彼女の返答は、「どのようにして」という別れ際のシーンに対する疑問として受け取られ、尻切れトンボになった風景を私は彼女から受け取った。その話の中に「好意が曖昧なまま付き合い始めた」という真因がぼんやりと含まれており、惰性で続いていたものにケリをつける要領で「最後は軽いノリで別れた」という結論に至っていた。

 

軽いノリで(後腐れなく)別れるという事は、なるほど良い事のように思える。

 

ただそれって、先週別れた彼に対してだけでなく、これから付き合うかもしれない俺に対してもそうなるって事?

 

何故だろう。そんなことを考えてしまった。

 

「え・・・? そんな簡単に分かれたの?」

「うん。 女子高生の恋愛なんてそんなもんだよ。」

「まじ? そんなもん?」

「そんなもん!」

 

そうなのか・・・。

これまでの人生で彼女を持った事が無い理系大学院生だった当時の私には、「そんなもん」だと言われた事が鮮烈に印象として焼き付いた。

 

結局、その日は告白できなかった。

ここで肩に手を周わして怖い思いをさせてしまわないだろうか・・・とか、この2人きりで逃げられない状況で手を握ったりして彼女は拒む余地がなかったらどうしよう・・・とか、「はい」と言うしかないような微妙なタイミングで、俺本位に好意を伝えて肯定を強要させてしまわないだろうか・・・とか、そもそも年齢的に(相手は未成年だから)犯罪なのではないのか・・・とか、俺もそのうち「そんなもん」になるのか・・・とか、色々な事柄が頭を巡って、何もしなかったのである。

 

意気地がなかったのだろうか?

総合的な判断だったように思うのだが、、、今でも後悔が残る。

 

 

2回目のデートは無かった。

 

 

誘っても都合が悪いと言われるだけで、別の日程を提示されなかったという事は、遠回しなNOサインであることが私には分かった。意地を見せられたように思う。

 

ここからは蛇足で本題なのだが、初回限りのデートの最後の別れ際、彼女が私に見せた謎の行動の心理が、ふと分かったのでここに書き留める事にした。

 

 

彼女は別れ際、突然「わっ!」と言って、私を驚かせて転ばせようとしてきた。

「え?なになに?」と言いながらも冷静に対処した私は、彼女の謎の驚かしにビクともしなかった。彼女の行動は謎過ぎて、本当に訳が分からなかった。

 

恐らく、この時の彼女の胸中は次のようなものであろう。

「本当は強引にでも不器用でもいいから好意を伝えて欲しかったけど、何もないままもうデートも終盤。こうなったらアニメや漫画の転ぶようなシーン、偶然でも何でも良いから何か起こって!」

 

多分こういう事だったのだろう。

いや、本当はもっとスマートに最速で告白して欲しかったのだろう。しかし、何も無くてどんどん失望していき、最後はもはや思いがけない偶然で良くなった。このまま何も起こらないままで帰るのは何より嫌だったのだろう。

深い意味はなく、このくらいの意味だったのだろう。

 

たぶん、そんなもんだ

 

結局、何もなく帰ってしまった。

 

これだけ失望させてしまえば、そりゃお互いに好意が残っていても2回目のデートを断られるのは納得だ。当然ではなく納得だ。3回目のデートで告白という王道までとても漕ぎ着けられない。

 

 

私は人生において、いまだに彼女が居た経験を持たない。

 

こんなもんだ